歯周病を起こす細菌をどうやって退治する?
〇歯周病の原因は?
子どもの口の中を調べると、半分くらいの子どもから歯周病原性菌が見つかります。おそらく両親
から感染したのでしょう。しかし、言うまでもないことですが、感染しているからといって歯周病
になるわけではありません。
細菌にとって好都市の条件がそろったときに、細菌はバイオフィルムをつくります。歯周病の原因
になる細菌は、どれも酸素ゼロの条件でなければ育ちません。そして十分な栄養ななければ育ちま
せん。歯周病を起こす細菌を凶暴な肉食獣にたとえると、この肉食獣はたくさんの大型の草食動物
がすんでいる草原でなければ活動できないのですが、この大型の草食動物が増えるためには、広い
草地が必要で、豊かな草原は豊富な水や鳥や昆虫なしには育ちません。このように歯周病の細菌が
増えるためには、それを支える環境、その環境に守られて何種類もの膨大な数の細菌がバイオフィ
ルムをつくることが条件です。そして炎症によって歯肉の溝にしみ出る血液成分を栄養にして繁殖
します。
歯肉に炎症が生じると、歯と歯ぐきのすき間に深いひだができますが、深い歯周ポケットには、膨
大な数の細菌がバイオフィルムをつくっています。歯の根にくっついているバイオフィルムも歯周
ポケットの中を浮遊しているものもあります。
〇プラークコントロールの役割分担
歯ぐきの健康を維持・回復するためには、目に見えないバイオフィルムをゴシゴシと機械的に破壊
しなければなりません。歯石を取る器具でバイオフィルムの住処になっている歯石を取り除きま
す。ここで広大な草原に隠れている凶暴な肉食獣を一匹残らず退治すると考えると大変ですが、実
は大きな草食動物の群が消えただけでも、サバンナの肉食獣は繁殖できなくなるのです。
歯ブラシを使った日常的なプラークコントロールは、間接的に歯ぐきに隠れた毒性の高いバイオ
フィルムの成長をじゃまします。直接に破壊するのです。それを担当するのは患者さんの自身で
す。ブラッシングは完璧ではなくても大丈夫です。いつも同じところを磨き残すことがないように
ブラッシングを教えてもらいます。
目に見えない部分は専門家の担当ですが、完璧にきれいにすることよりもバイオフィルムを定期的
に破壊すれば、毒性の高いバイオフィルムには成長しません。かき回して酸素を入れるだけでも細
菌はコントロールできるのです。
〇バイオフィルムの正体
ここでバイオフィルムという耳新しい言葉についてもう少し詳しく説明しておきましょう。
感染症の65%はバイオフィルムが原因といわれています。これまで細菌の研究は、バラバラの細
菌を相手にしていたのですが、細菌たちは集団になると全然別の性格になることがわかってきたの
です。そこでバイオフィルムという考え方が重要になってきました。
バイオフィルムが下水管を詰まらせた、錆びないはずのステンレスが腐食したバイオフィルムは閉
鎖的な環境をつくって腐食を加速するのです。毒性の低い細菌で大きな被害が出るのもバイオフィ
ルムの仕業です。
バイオフィルムは、細菌のスラム街みたいなもので、あたりをうろうろしている細菌は、そこに引
き寄せられ、バイオフィルムは拡大増殖していきます。まるで群集心理のように細菌同士がお互い
に影響し合い、別の性格に変わります。密度が高くなれば情報も多くなり、ある密度を超えるとみ
んなで有害なタンパク質や酵素をつくり始めます。抗生剤も殺菌剤も効果がなく、持続的に強い有
害物質を出しつづけるバイオフィルムにはこのような性質があることがわかってきました。