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定期管理で歯周病はコントロールできる

〇バイオフィルムを定期的に壊し取り除く   プラークコントロールは家庭で自分自身でするものと、その人のリスクに応じて定期的に歯科医院   http://www.cyber-digital.jp/dental-flash/ でするもの、その二つがかみ合ってはじめて効果的なものになります。プラークコントロールの目   的は、バイオフィルムを壊し取り除くことです。   患者さん自身が家庭でするブラッシングの大切さは強調してしすぎることはないのですが、歯ブラ   シだけで歯周病が治ると考えるのは誤解です。プラークコントロールは、歯科医院で定期的に専門   家の清掃を受けなければ確実ではありません。決まって同じところをみがき残しているということ   はよくあることですし、歯ぐきに隠れたバイオフィルムや歯ブラシの届かない場所から歯周病が進   むからです。ある程度深い歯周ポケットになると、患者さんのブラッシングだけでは歯を支える組   織の破壊が生じるといわれています。   定期管理を重視する歯科医院では、気持ちよくなることやきれいにすることにも関心を払っていま   すが、定期管理の主たる目的はバイオフィルムの確実な破壊と除去にあります。   〇定期的な通院でするのは「歯石の除去」?   定期管理って歯石を除去してもらうことでしょ?まあそうです。小さな耳かきのような刃先の器具   で歯根についた歯石を除去してもらいます。ただ、歯石そのものは歯周病の原因ではありません。   歯石の多くは、細菌が石灰化したものですが、ミネラルの固まりそのものは害のあるものではな   く、問題はそのざらざらの表面です。そこに細菌が定着してつくったバイオフィルムが歯周病の原   因になるのです。   若くして発症した破壊の早い歯周病の中には、歯石や目立ったプラークなしに破壊が進むものもあ   ります。このような歯周病でも原因はやはりバイオフィルムです。歯肉に隠れた部分のバイオフィ   ルムを除去し、破壊することで歯周病の進行は止まります。   〇高度な熟練が必要な目に見えない歯石の除去   目に見えるところでは、歯石はエナメル質にくっついています。エナメル質はツルツルですから、   器具を使うと歯石は簡単にパチッと剥がれます。歯石除去のことをスケーリングといいますが、ス   ケールとは魚のうろこ。うろこを剥がす要領で歯石を取ります。しかし、歯肉に隠れたバイオフィ   ルムの温床になるのは、歯根のセメント質についた歯石です。セメント質は骨とよく似た組織で   す。ガラスに付いた汚れをきれいにするのと、材木についた汚れをきれいにする作業の違いを想像   してください。   歯周病の定期的なコントロールでは、長い時間をかけて歯根を探り、ザラザラの歯石を見つけて、   そこにこびりついたバイオフィルムごと除去する作業をくりかえします。この作業は、指先の感覚   で歯石の一番深いところを探り当てて、刃先に力を集中するとても根気のいる作業です。歯ぐきを   傷めず、根面を削らないようにすると不快感は小さいのですが、そのためには熟練を要します。バ   イオフィルムさえ破壊できれば、少々の細菌が残っていることは問題ではありません。研究によれ   ば、歯根を研磨するだけでもバイオフィルムの出した毒素と歯石は、ほとんど除去されることがわ   かっています。超音波振動を使って根面をきれいにするだけでも効果があります。初期から中程度   の歯周病の治療後の管理であれば、このような簡単な処置で効果が上がります。  

定期管理(検診)って何をするの?(予防とクリーニング)

〇定期的なバイオフィルムの破壊と除去 http://www.cyber-digital.jp/dental-flash/ メインテナンスの通院で何をするかは、患者さんの状況によって異なりますが、どの患者さんの場 合にも、歯の専門的なお掃除は欠かせません。バイオフィルムは強力に歯にくっついていますし、   歯にはたくさんの小さな窪みがあります。ここに歯ブラシの毛先は届きません。歯と歯の間はフロ   スを上手に使わなければきれいにできません。徹底したお掃除の後にはフッ素入りペーストで入念   に研磨してくれるでしょう。 歯と歯肉の境目にも歯ブラシの毛先が届きにくいところがあります。長期間そのままにすると、そ   こに構造の安定したバイオフィルムができて、歯肉に炎症を引き起こします。歯ぐきに隠れた部分 http://www.cyber-digital.jp/dental-flash/   では毒性の強いバイオフィルムになります。定期管理では、このようにしてできた細菌の固まりや   歯石を破壊し除去します。   〇歯の専門的なお掃除   歯の専門的なお掃除は、まず、器械を使って歯をつやつやにみがきます。回転がゆっくりの器具を   使うのでちょっと振動を感じますが、不快だったら「もっと弱く」と注文をつけてもいいでしょ   う。歯ぐきや舌の表面をお掃除してくれるところもあります。   残念ながら、この種の定期管理は保険ではできませんが、三ヶ月に一度か六ヶ月に一度、髪をカッ   トに行くように、歯科医院に歯の掃除のために行く人が少しずつ増えています。   定期管理をしてくれる歯科医院には、最後に歯をみがいてくれるところがあります。みがき方のコ   ツ、歯ブラシの感触、きれいになった後の壮快感、そういうものは教えられて理解するものでな   く、体感して感激して、納得するものです。このような壮感体験は、セルフケアをつづけるうえで   も有益です。もちろんこの専門的なお掃除は、むし歯や歯周病のリスクコントロールのひとつで   す。食生活のチェック、お口の清掃状態の評価、フッ素塗布、歯と歯ぐきのすき間の評価など要点   をおさえてその人その人のリスクを管理するのが定期管理です。   〇深い歯周病ポケットのある人のメインテナンス管理   歯周病になると歯と歯肉のすき間に深い溝ができます。これを歯周ポケットと呼んいますが、歯周   病の治療をして炎症がなくなっても、深い溝は残ります。この溝をすっかりなくすには、歯肉を切   り取らなければなりません。そこでしばしば、深い歯肉の溝を残したまま管理することになりま   す。このような管理の仕方(ポケット・メインテナンス)では、定期的な管理がとても大切です。それほど重症ではない場合、あるいは外科的に歯周ポケットをなくすにはむしろ重症すぎる場合、そして外見上歯肉が下がると困るような部分では、ポケット・メインテナンスが普通の処置方法です。深い歯肉の溝があっても、プラーク(歯垢)コントロールができていれば再発は防げます。ただ、うっかり注意を怠ってしまうとすぐに再発します。 深い歯周ポケットのメインテナンスには、とくに熟練が必要です。歯科衛生士は耳かきのような刃物を使って、歯ぐきの下の隠れたポケットの中を手探りできれいにします。歯根の表面は、口の中の見えている部分と違って、表面がザラザラですからその表面に歯石が入り込み、そこにバイオフィルムが定着しています。それを取り除くのがポケット・メインテナンスの最も重要な作業です。 歯ぐきの下の歯石を取るときだけは、あまり気持ちがいいというわけにはいきません。深いところでは麻酔をすることもあります。定期管理をしっかりしていれば、通常、深いところに歯石がついてしまうことはありません。歯ぐきに隠れた場所のバイオフィルムも器具ですくうだけできれいになるので、痛みや不快感はほとんどないのです。

どこで定期検診を受けたら良いの?

〇痛いのはイヤ。待たされるのもイヤ   悪くなってから痛い思いをして、お金と時間をかけて治療するより、悪くならないように定期的に   歯科医院に通って、それで歯の健康が保てるならその方がいい。だれだってそう思います。でも、   そう思って受診したら、小さなむし歯を削れらた。よく聞く話です。   数ヶ月に一度だとしても、何も悪いところがないときに、歯医者さんに行けるでしょうか?歯を削   られたり、注射されたりするのなら、行きたくないです。痛いのはイヤ。待たされるのもイヤで   す。ほんとうに定期管理ができる歯科医院は、こういう患者さんの気持ちがちゃんとわかっている   ところです。   そういう歯科医院は、まだ極めて少数です。しかし、確実に増えています。   〇なぜ定期管理のできる歯科医院は少ないのか?   多くの歯科医は、定期管理を求める患者さんは少ない、だからしていないだけで、「定期管理を求   められればする」と言います。   これまでの医療は、治療を求められて、それに応える受け身の仕事でした。とくに保険診療では、   患者さんを診察して、それにかかる医療費の心配はいらないので、これほど楽な関係はありません   でした。医者も歯医者も、「受け身」がからだに染み着いていますから、自分から患者さんに定期   管理を勧めることができないのです。頼まれてする仕事を引き受けるのと、頼まれもしないことを   勧めるのでは、責任もむずかしさも評価も、天と地ほども違いますからね。   もうひとつの大きな問題は保険制度です。リスクのある人の歯科の定期管理は、最も合理的な治療   法だといえますが、発症前治療には十分な理解が得られていません。バイオフィルム感染症はほか   に例がないので、定期管理は「予防」とひとくくりにされてしまいます。その検査や処置の多くに   は保険が使えません。保険が使えないと、患者さんの負担が多くなります。患者さんの理解が得ら   れない現状では、歯科医にとっては「悪くなるまで待って」治す方が無難なのです。   〇定期管理のできる歯科医院の探し方   もし、歯科医が定期管理をする気になっても、それを担当してくれる人がいなければできません。   定期管理の担当はおもに歯科衛生士です。熟練した技術がなければ短時間で確実な歯のお掃除はで   きません。とくに歯周病のある人の場合は、歯ぐきに隠れた部分の清掃(歯石の除去など)が必要   ですが、この作業にはかなり熟練が必要です。知識と技術をもった歯科衛生士でないと、定期管理   は不快で成果の上がらないものになります。能力の高い歯科衛生士がいなければ定期管理はできな   いわけです。   こういう事情から、効果的で患者さんの利益になるとわかっているのに、リスクコントロールを勧   めることができない歯科医院は少なくないのです。逆に言えば、しっかりした歯科衛生士が複数い   る歯科医院は可能性アリです。実はこれが一番確実な、かかりつけ歯科医院探しのポイントでもあ   るのです。定期管理をしてくれる歯科医院を探すことは、現状では簡単ではないでしょう。   でも患者さんが求めるならそれに応えたいと考えている歯科医院はたくさんあります。患者さんの   方から声をかけて定期的な管理を求めてみてください。   〇何も悪いところがないときに歯医者さんに通う   では、必要性は理解しました。熟練した歯科衛生士がいる歯科医院も見つかりました。お金の問題   もないとします。それでも実際に定期管理に通うとなると億劫ですね。   ところがものは考えようです。品のいい60歳半ばの女性がいました。六ヶ月に一度でいいという   のに毎月毎月定期的に通って来られます。痴呆になった90歳すぎの姑さんと二人暮らし、別に近   くに住むご自分のお父さんの面倒も見ているといいます。そのお世話は一通りではありません。   けっして暇ではないのです。   リスクの高い人ではないので、「六ヶ月に一度にしましょう、ご無理をなさらずに」と申し上げま   した。すると、そのご婦人は、「ここに来るぐらいしか、自分を大事にする時間がないんですよ」   と言われます。この女性は、つかの間の安息を求め、自分を大事にするために歯の定期管理を受け   ていらっしゃったのです。

歯周病を起こす細菌をどうやって退治する?

〇歯周病の原因は?   子どもの口の中を調べると、半分くらいの子どもから歯周病原性菌が見つかります。おそらく両親   から感染したのでしょう。しかし、言うまでもないことですが、感染しているからといって歯周病   になるわけではありません。   細菌にとって好都市の条件がそろったときに、細菌はバイオフィルムをつくります。歯周病の原因   になる細菌は、どれも酸素ゼロの条件でなければ育ちません。そして十分な栄養ななければ育ちま   せん。歯周病を起こす細菌を凶暴な肉食獣にたとえると、この肉食獣はたくさんの大型の草食動物   がすんでいる草原でなければ活動できないのですが、この大型の草食動物が増えるためには、広い   草地が必要で、豊かな草原は豊富な水や鳥や昆虫なしには育ちません。このように歯周病の細菌が   増えるためには、それを支える環境、その環境に守られて何種類もの膨大な数の細菌がバイオフィ   ルムをつくることが条件です。そして炎症によって歯肉の溝にしみ出る血液成分を栄養にして繁殖   します。   歯肉に炎症が生じると、歯と歯ぐきのすき間に深いひだができますが、深い歯周ポケットには、膨   大な数の細菌がバイオフィルムをつくっています。歯の根にくっついているバイオフィルムも歯周   ポケットの中を浮遊しているものもあります。   〇プラークコントロールの役割分担   歯ぐきの健康を維持・回復するためには、目に見えないバイオフィルムをゴシゴシと機械的に破壊   しなければなりません。歯石を取る器具でバイオフィルムの住処になっている歯石を取り除きま   す。ここで広大な草原に隠れている凶暴な肉食獣を一匹残らず退治すると考えると大変ですが、実   は大きな草食動物の群が消えただけでも、サバンナの肉食獣は繁殖できなくなるのです。   歯ブラシを使った日常的なプラークコントロールは、間接的に歯ぐきに隠れた毒性の高いバイオ   フィルムの成長をじゃまします。直接に破壊するのです。それを担当するのは患者さんの自身で   す。ブラッシングは完璧ではなくても大丈夫です。いつも同じところを磨き残すことがないように   ブラッシングを教えてもらいます。   目に見えない部分は専門家の担当ですが、完璧にきれいにすることよりもバイオフィルムを定期的   に破壊すれば、毒性の高いバイオフィルムには成長しません。かき回して酸素を入れるだけでも細   菌はコントロールできるのです。   〇バイオフィルムの正体   ここでバイオフィルムという耳新しい言葉についてもう少し詳しく説明しておきましょう。   感染症の65%はバイオフィルムが原因といわれています。これまで細菌の研究は、バラバラの細   菌を相手にしていたのですが、細菌たちは集団になると全然別の性格になることがわかってきたの   です。そこでバイオフィルムという考え方が重要になってきました。   バイオフィルムが下水管を詰まらせた、錆びないはずのステンレスが腐食したバイオフィルムは閉   鎖的な環境をつくって腐食を加速するのです。毒性の低い細菌で大きな被害が出るのもバイオフィ   ルムの仕業です。   バイオフィルムは、細菌のスラム街みたいなもので、あたりをうろうろしている細菌は、そこに引   き寄せられ、バイオフィルムは拡大増殖していきます。まるで群集心理のように細菌同士がお互い   に影響し合い、別の性格に変わります。密度が高くなれば情報も多くなり、ある密度を超えるとみ   んなで有害なタンパク質や酵素をつくり始めます。抗生剤も殺菌剤も効果がなく、持続的に強い有   害物質を出しつづけるバイオフィルムにはこのような性質があることがわかってきました。

歯肉炎や歯周病は歯垢がたまると歯肉に炎症が起こる現象です。

〇健康な歯肉と炎症の歯肉   健康な歯肉は、その下の骨とそっくりの形になるので、外側から見ると一本一本の歯根の形が、畑   のうねようにきれいに波打って見えます。歯と歯肉の境目の形は、そのうねの端を斜めに切ったよ   うに弧を描いています。歯肉は、歯に近い部分数ミリは骨に固定され、骨を硬くおおっています。   軟らかい粘膜部分に比べて白っぽく、ブヨブヨしたところもありません。細菌が白い固まりになっ   てたまると歯肉には炎症が起こります。炎症が生じると赤くブヨブヨになります。歯肉の腫れはま   ず、歯と歯ぐきの間に伸びた、狭い歯肉に出ます。その腫れがひどくなると、弧を描いている歯肉   の縁が膨らみ割れ始めます。   炎症が慢性化するとこのブヨブヨがゴツゴツした感じに変わります。タバコを何年も吸っている人   の歯肉はブヨブヨしていないので一見炎症がないように見えます。色もピンクではなくドス黒く変   化します。   〇歯肉の病気の種類   歯肉の病気の種類は非常に多いのですが、プラークなしには起こらない炎症と、プラークとは無関   係に起こる病気に分けて考えます。プラークに関係する歯肉炎は、プラークだけによる炎症ばかり   ではなく、内分泌系に関係するものや薬物に関係するものがあります。たとえば、抗てんかん薬の   フェニトインは服用した人の約50%に、歯肉にゴワゴワとした腫れを引き起こすとこで有名で   す。狭心症や高血圧に使われるカルシウム拮抗剤は服用者の約20%、そのほか免疫抑制剤なども   同じような歯肉の腫れを引き起こします。   妊娠初期や月経周期に伴って炎症が生じることがあります。経口避妊薬の服用も、それに類した炎   症を引き起こすことがあります。   ただし、このような歯肉の炎症は、どれもプラークなしには生じません。プラークによる炎症が起   こりやすくなったりひどくなったりするもので、丁寧なプラークコントロールができれば炎症は改   善します。   改善しない場合は、別の原因を疑うべきでしょう。もっともゴワゴワに腫れてしまったケースやブ   ヨブヨに腫れて出血しているケースでは、清掃がままなりません。このためゴワゴワの場合には歯   肉を外科的に除去する処置をすることがあります。ブヨブヨの場合には清掃方法や道具を工夫しま   す。        

定期検診(クリーニング)を前提にした「歯の修理」と「治療」てなに?

〇リスク管理を重視する歯科医院では「修理」の仕方も違ってくる   どんな病気の治療法も、日々進歩し、その変化の途上では異なる治療法が共存することがありま   す。むし歯の治療法は、現在この段階にあります。大きく二つの傾向、「リスク管理医療」とそう   でない、いわば「修理中心の医療」に分けられますが、この二つでは、むし歯の条件が同じでも軸   足の置き方が違うために、まったく異なる医療になります。   もちろんすべての歯科医は多かれ少なかれ「修理する医療」をしています。しかしリスク管理に軸   足を置いた歯科医院では、「修理」の仕方が違ってくるのです。   むし歯の初期ではとくに大きな違いがあります。修理を中心に考えると、むし歯になりそうな部分   までしっかり削ってきちっと詰めることが大切です。しかし「リスク管理医療」では、削って詰め   ることを急ぎません。悪くなったところを観察しながら、むし歯のリスク因子を調べてそれをコン   トロールし、必要であれば小さく削って小さく詰めます。このようにその場の問題解決ではなく長   い目でみた「リスク管理医療」をするのが、かかりつけ歯科医です。   むし歯に大きな穴が開いてしまった場合でも、「リスク管理」ができるかできないかで、歯の削り   方まで違ってきます。感染が歯髄(神経・血管)に近づいている場合に、かかりつけ歯科医で「リ   スク管理」が可能であば、無理に削らず、感染部分を残して殺菌して様子を見ることができます。   かかりつけ歯科医でなければ、確実に感染した象牙質を削り取る必要がありますから、神経を取る   必要がありますから、神経を取る可能性が高いでしょう。   〇普及し始めた「リスク管理医療」   歯科医院によって、このような違いがあることが、患者さんを混乱させますが、現時点では、日本   の大半の若い歯科医は、すでに修理中心の歯科医療の問題点を理解しています。しかし診療の仕方   は、「リスク管理」型になっていません。ハッキリとそのような診療姿勢に転じた歯科医院は、ま   だほんの一握りです。   この文章の筆者は、病因にターゲットを当てた「リスク管理医療」の提唱者です。ですから、   この文章の内容は日本の歯科医療の実状からすると、必ずしも平均的ではありません。   〇年齢によって治療法は変わる   歯の形や機能を回復させるための「歯の修理は」、永遠にもつわけではありません。歯を削って、   その穴にアマルガムという金属の練り物を詰めた場合には平均で6年、長くて10年。アマルガム   は色が悪く、変色、腐食が早く、まわりの組織を黒く着色させますが、同時に殺菌力があるため、   かみ合わせの部分でなければ比較的長くもちます。しかし前歯にプラスチックを詰めた場合は平均   4年という短さです。金属の鋳造でつくった「詰めもの(インレー)」や「かぶせ物(クラウ   ン)」も、むし歯の再発でダメになっています。問題なく15年もつことは滅多にありません。そ   こで治療をするときには、その処置の耐用年数を見越して先を考えた治療をする必要があります。   70歳の人であれば、やり直しがないことを前提に治療してもよいのですが、20歳の人であれ   ば、最低2回以上やり直しできるように控えめな治療をします。成長期のうちは仮の治療にとどめ   ることが望ましいでしょう。   もちろん大人になれば、その人のもつ社会的な立場や職業上の必要など、治療の基準には歯科医学   の理屈に及ばない、その患者さんの生活がありますので、歯科医は患者さんの生涯にとってよりよ   い治療を提案することができるにすぎません。残念ながら歯科医師の大学教育にも保険のしくみに   も、このような配慮はありません。穴の大きさによって治療方法を決めてしまったり、ひどい場合   には歯医者さんの得意、不得意によって、処置の仕方が決められています。   患者の年齢や生活の事情に即した治療方法を提案できるのは、かかりつけ歯科医だからこそです。    

歯周病や虫歯についての勘違い

〇むし歯の穴は、病気が残した傷あと   むし歯の穴は、う蝕という慢性の病気が目に見える形になったものです。ウイルスの感染で高熱が   出て、全身に発疹ができ、水ぶくれがたくさんできる痘瘡(天然痘)という病気がありますが、痘   瘡(水ぶくれ)が人目につくので、目に見える形になった病気の代名詞になっています。穴の開く   前のさまざまなプロセス、穴の底からの歯髄への感染など、「穴」以外に病気のいろいろな側面が   あります。簡単にいえば、むし歯の穴は、むし歯という病気が残した傷あとなのです。   傷あとを修理して快適にするのも大事なことですが、むし歯の治療で最も大事なことは、病気を今   以上に進行させない、自然に治らないほど大きな穴が開くまで放ったらかしにしないことです。で   は、どういう治療をするのか?それを理解するには、むし歯の原因を理解していただく必要があり   ます。   〇歯がグラグラするのは歯周病の後遺症   悪くなると歯がグラグラ揺れて抜けてしまう歯周病の治療も、20?30年くらい前までは、むし   歯と同じように、病気で悪くなった結果にだけ注目して治療をしていました。グラグラ揺れる歯を   動かないように固定していたのです。   糖尿病という病気をご存知でしょうが、糖尿病はひどくなると、指先、網膜など末梢の組織がでし   まいます。その結果、目が見えなくなる(糖尿病性網膜症)ことがあります。   ここで目の治療をすることや眼鏡をつくることを糖尿病の治療だと考える人はいないでしょう。歯   周病で、グラグラになった歯をつないでかめるようにする治療は生活の障害を軽くする対策です   が、歯周病の治療ではありません。   残念なことに、歯科医の教育や医療制度が変わるには、わが国の場合、かなり時間がかかります。   多くの患者さんは、削って何かを詰めるのがむし歯治療だと思っていますが、実は歯科医自身も穴   のまわりを削ってきれいに詰めることだけをむし歯治療だと考えてきました。病気でできた傷あと   がひどいので、医者も患者もとにかく傷あとを治すことに専念して、薄々わかっていながら肝心の   病気を治そうとしてこなかったのです。   〇慢性の病気はリスクの管理が常識   「でも、詰めたりかぶせたりする治療しかしてくれない」と皆さんおっしゃるかもしれません。多   くの歯医者さんも同じように言います。「削って詰めてもむし歯はなおりゃしないけど、まず患者   さんがそれを求めるんだから仕方ない」。歯科医の教育も医療制度も同じです。こうしてだれもお   かしいと感じてはいるのですが、みんな堂々めぐりをしながらもたれ合っています。   むし歯、歯周病の悩みから解放され、歯のない苦労をしないためには、この堂々めぐりから抜け出   すのが対策です。患者さんの中に「目先のことだでじゃなく、自分の健康をやっぱり大事にした   い」と考える人がいるように、歯医者さんの中にも「患者さんの健康を維持して喜ばれて世の中の   役にたちたい」と考える人がたくさんいるのです。   そのために、まずリスクという考え方になじんでください。そしてリスクの管理を慢性の病気の予   防や治療やリハビリの常識にしてしまいましょう。          

赤ちゃんのむし歯予防は妊娠中から

〇感染の窓をいったん閉じれば、ずっとむし歯菌には悩まされない   お母さんやお父さん(保育に携わる人)が、自分の口の中のむし歯を少なく保っていれば、赤ちゃ   んへのむし歯菌の感染の危険は、赤ちゃんが大きくなるまでずっとつづくわけではありません。生 後19?31ヶ月の一年間に、感染が成立するといわれています。この時期を専門家は「感染の   窓」と呼んでいますが、この間だけ、しっかりと窓を閉じておけば、その後はずっとミュータンス   菌が感染しにくくなるのです。 逆に、この時期にお母さんの口の中にたくさんのむし歯菌がいたら、生えたばかりの赤ちゃんの歯   に、ほとんど間違いなくむし歯菌が定着します。この時期に悪玉菌が定着してしまうと、その子ど   もの口の中は、悪玉菌の天下になってしまいます。そうなってしまうと、その後いくら歯みがきを   してもむし歯菌は容易になくならないらしいのです。   〇妊娠初期に早くも歯ができ始める   妊娠5?9週の、まだ赤ちゃんが指先ほどの大きさのとき、赤ちゃんのアゴの骨の中で乳歯の卵が   でき始めます。妊娠16週には、もう大人の歯(第一大臼歯)の卵がかたちづくられます。   この時期は、赤ちゃんのからだの主要な部分ができる時期ですから、お母さんの健康と栄養がとく   に大切です。栄養の不足は、胎児ではなく、まず妊婦のからだにダメージを与えます。しかし、ビ   タミンAやDの不足は、胎児の歯やアゴの骨の正常な発育を妨げます。   〇妊娠を知った日から口の中の衛生に気を配る   妊娠、出産、授乳、この時期は、妊娠初期のつわりに始まって、味覚の変化、体調の変化が大き   く、食べ物の好みも偏り、食事も不規則になります。カルシウムは、赤ちゃんに奪われます。出産   は、歯を食いしばらなければなりません。出産後は、出産による疲労、育児の忙しさと疲れのため   に、お母さんの口の中の衛生状態は、どうしても悪くなりがちです。   妊娠を知ったその日から、出産に備えて、お口の衛生に気を配る。これが赤ちゃんのむし歯予防に   とても効果的な第一歩です。   〇痛みナシ、問題ナシの子どもに育てるために   ニューヨーク州歯科医師会のホームページに掲げられている「痛みナシ問題ナシの子どもに育てる   10箇条」の第一条は、「お母さんは妊娠中、自分の口の中を清潔にし、治療を受けておく」、第   二箇条は「最初の乳歯は生え始めたとき、または赤ちゃんが1歳になるまでに歯科を受診する」で   す。   幼児になって、むし歯の痛みを感じてからはじめて歯科を受診することになったら、きっとそれは   不安で怖いでしょう。悪くなってからの受診は、とてもむずかしく、子どもの協力がない限り、質   の良い治療もできません。歯科に怖いイメージをいだかせないためにも、何でもない赤ちゃんのと   きから健診のために歯科を受診しましょう。