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歯周病や虫歯についての勘違い

〇むし歯の穴は、病気が残した傷あと   むし歯の穴は、う蝕という慢性の病気が目に見える形になったものです。ウイルスの感染で高熱が   出て、全身に発疹ができ、水ぶくれがたくさんできる痘瘡(天然痘)という病気がありますが、痘   瘡(水ぶくれ)が人目につくので、目に見える形になった病気の代名詞になっています。穴の開く   前のさまざまなプロセス、穴の底からの歯髄への感染など、「穴」以外に病気のいろいろな側面が   あります。簡単にいえば、むし歯の穴は、むし歯という病気が残した傷あとなのです。   傷あとを修理して快適にするのも大事なことですが、むし歯の治療で最も大事なことは、病気を今   以上に進行させない、自然に治らないほど大きな穴が開くまで放ったらかしにしないことです。で   は、どういう治療をするのか?それを理解するには、むし歯の原因を理解していただく必要があり   ます。   〇歯がグラグラするのは歯周病の後遺症   悪くなると歯がグラグラ揺れて抜けてしまう歯周病の治療も、20?30年くらい前までは、むし   歯と同じように、病気で悪くなった結果にだけ注目して治療をしていました。グラグラ揺れる歯を   動かないように固定していたのです。   糖尿病という病気をご存知でしょうが、糖尿病はひどくなると、指先、網膜など末梢の組織がでし   まいます。その結果、目が見えなくなる(糖尿病性網膜症)ことがあります。   ここで目の治療をすることや眼鏡をつくることを糖尿病の治療だと考える人はいないでしょう。歯   周病で、グラグラになった歯をつないでかめるようにする治療は生活の障害を軽くする対策です   が、歯周病の治療ではありません。   残念なことに、歯科医の教育や医療制度が変わるには、わが国の場合、かなり時間がかかります。   多くの患者さんは、削って何かを詰めるのがむし歯治療だと思っていますが、実は歯科医自身も穴   のまわりを削ってきれいに詰めることだけをむし歯治療だと考えてきました。病気でできた傷あと   がひどいので、医者も患者もとにかく傷あとを治すことに専念して、薄々わかっていながら肝心の   病気を治そうとしてこなかったのです。   〇慢性の病気はリスクの管理が常識   「でも、詰めたりかぶせたりする治療しかしてくれない」と皆さんおっしゃるかもしれません。多   くの歯医者さんも同じように言います。「削って詰めてもむし歯はなおりゃしないけど、まず患者   さんがそれを求めるんだから仕方ない」。歯科医の教育も医療制度も同じです。こうしてだれもお   かしいと感じてはいるのですが、みんな堂々めぐりをしながらもたれ合っています。   むし歯、歯周病の悩みから解放され、歯のない苦労をしないためには、この堂々めぐりから抜け出   すのが対策です。患者さんの中に「目先のことだでじゃなく、自分の健康をやっぱり大事にした   い」と考える人がいるように、歯医者さんの中にも「患者さんの健康を維持して喜ばれて世の中の   役にたちたい」と考える人がたくさんいるのです。   そのために、まずリスクという考え方になじんでください。そしてリスクの管理を慢性の病気の予   防や治療やリハビリの常識にしてしまいましょう。          

赤ちゃんのむし歯予防は妊娠中から

〇感染の窓をいったん閉じれば、ずっとむし歯菌には悩まされない   お母さんやお父さん(保育に携わる人)が、自分の口の中のむし歯を少なく保っていれば、赤ちゃ   んへのむし歯菌の感染の危険は、赤ちゃんが大きくなるまでずっとつづくわけではありません。生 後19?31ヶ月の一年間に、感染が成立するといわれています。この時期を専門家は「感染の   窓」と呼んでいますが、この間だけ、しっかりと窓を閉じておけば、その後はずっとミュータンス   菌が感染しにくくなるのです。 逆に、この時期にお母さんの口の中にたくさんのむし歯菌がいたら、生えたばかりの赤ちゃんの歯   に、ほとんど間違いなくむし歯菌が定着します。この時期に悪玉菌が定着してしまうと、その子ど   もの口の中は、悪玉菌の天下になってしまいます。そうなってしまうと、その後いくら歯みがきを   してもむし歯菌は容易になくならないらしいのです。   〇妊娠初期に早くも歯ができ始める   妊娠5?9週の、まだ赤ちゃんが指先ほどの大きさのとき、赤ちゃんのアゴの骨の中で乳歯の卵が   でき始めます。妊娠16週には、もう大人の歯(第一大臼歯)の卵がかたちづくられます。   この時期は、赤ちゃんのからだの主要な部分ができる時期ですから、お母さんの健康と栄養がとく   に大切です。栄養の不足は、胎児ではなく、まず妊婦のからだにダメージを与えます。しかし、ビ   タミンAやDの不足は、胎児の歯やアゴの骨の正常な発育を妨げます。   〇妊娠を知った日から口の中の衛生に気を配る   妊娠、出産、授乳、この時期は、妊娠初期のつわりに始まって、味覚の変化、体調の変化が大き   く、食べ物の好みも偏り、食事も不規則になります。カルシウムは、赤ちゃんに奪われます。出産   は、歯を食いしばらなければなりません。出産後は、出産による疲労、育児の忙しさと疲れのため   に、お母さんの口の中の衛生状態は、どうしても悪くなりがちです。   妊娠を知ったその日から、出産に備えて、お口の衛生に気を配る。これが赤ちゃんのむし歯予防に   とても効果的な第一歩です。   〇痛みナシ、問題ナシの子どもに育てるために   ニューヨーク州歯科医師会のホームページに掲げられている「痛みナシ問題ナシの子どもに育てる   10箇条」の第一条は、「お母さんは妊娠中、自分の口の中を清潔にし、治療を受けておく」、第   二箇条は「最初の乳歯は生え始めたとき、または赤ちゃんが1歳になるまでに歯科を受診する」で   す。   幼児になって、むし歯の痛みを感じてからはじめて歯科を受診することになったら、きっとそれは   不安で怖いでしょう。悪くなってからの受診は、とてもむずかしく、子どもの協力がない限り、質   の良い治療もできません。歯科に怖いイメージをいだかせないためにも、何でもない赤ちゃんのと   きから健診のために歯科を受診しましょう。  

予防歯科(歯を長持ちさせる)真髄はバイオフィルムの除去です。

〇バイオフィルム感染症  

バイオフィルムができるまで

むし歯と歯周病は、バイオフィルム(むし歯菌や歯周病菌の塊) によって生ずる感染症です。バイオフィルム感染症は、よく知   られるほかの感染症と違って、病気の発症にいくつかの要因が関係したり、あるいは薬がほとんど   効かないという特徴があります。   バイオフィルム感染症の最も確実なコントロール方法は、定期的にバイオフィルムを機械的な方法   で破壊し、除去することです。歯科で、定期管理が特別な意味をもっているのは、このような理由   からなのです。バイオフィルムができやすい尿道カテーテルやコンタクトレンズも何ヶ月もからだ   の中にあるなら必ず定期管理が必要でしょう。   〇リスクを知れば確実にコントロール   細菌感染によって起こる病気は、急性、慢性、バイオフィルム感染症のように分けて考えられま   す。   バイオフィルム感染症や慢性細菌感染症は、細菌だけで発症するわけではなく、ストレスや生活習   慣などのリスク因子が関係します。このため、胃潰瘍の場合のように、細菌以外の要因が強調され   るケースがあるのです。   むし歯と歯周病は、このバイオフィルム感染症の代表格なのです。ここに、むし歯と歯周病の二つ   の病気の大きな特徴があります。それは、さまざまな要因が複雑に重なりあって起こる病気で、薬   が効かず、ハッキリとした自覚症状によって病気に気づいたときには元どおりに治すことができな   い、という特徴です。   〇定期管理に勝る対策はない   ほとんどの人の場合、健康な日常の生活習慣(禁煙、規則的な食事、口の中の清掃)の維持と数ヶ   月に一度の専門的な清掃によって、ほぼ確実に病気をコントロールできます。しかし、この定期管   理という方法は、ほかの病気の管理法や治療法と違うので、この簡単なことが、一般の人たちはも   ちろん専門家にもなかなか理解されません。悪いところもない、病気でもないのに定期的に歯科医   院に通う必要なんてないと思ってしまうのです。しかし、このバイオフィルム感染症は定期管理に   勝る対策はありません。自分で自分のからだのリスクを理解し、定期管理を受ければ、リスクの高   い人でも、合理的に病気をコントロールすることができます。

入れ歯になる人とならない人の分かれ道

〇第一大臼歯のダメージで占う   下アゴの前歯から数えて奥へ六番目の歯。それが人間の口の中で一番大きな歯です。これが小学   生に入る少し前に生え始める第一大臼歯(六歳臼歯)です。この歯は、かみ合わせの要になる一番   大事な歯ですが、一番早くダメになりやすい歯です。その理由は、かみ合わせ面の形が複雑で、生   えてくるのに時間がかかる(平均17ヶ月)ためです。そこで、この第一大臼歯がどれくらいダメ   になっているかで、あなたがいつごろ入れ歯になるかを占うことができます。   子どものことに詰める処置をした第一大臼歯は、治療をくりかえし、結局抜歯となってしまいま   す。もし、今までどおりのセルフケアだと、その流れのままに入れ歯になってしまうでしょう。   〇治療を重ねれば重ねるほど悪くなる   詰めものをした第一大臼歯は、数年から十数年で歯全体に金属をかぶせるクラウンに変わりま   す。治療した歯は、更に悪くなったとき大きな処置になってしまうのです。   クラウンになった第一大臼歯は、管理が悪ければ、ある年月で歯ぐきの問題か、再度むし歯にな   るかで抜歯され、ブリッジ(両隣りの歯を削って支えにして抜けた歯を補う処置)になるでしょ   う。これが60歳代ならいいのですが、40歳でこの状態になってしまうと、一生入れ歯なしとい   うわけにはいきません。なぜならブリッジの土台になった歯は10年から20年で失われることに   なるからです。口の中の悪い衛生状態がつづくと、あっという間に入れ歯になる可能性は大きくな   るのです。   髪が薄くなったりシワが増えるのは病気ではありません。でも、歯がなくなるのは病気が原因な   のです。日常の適切な手入れと、生涯自分の歯でかめることを考えた治療と専門的ケアをすれば、   あなたの寿命より歯の寿命は長くなるなずです。

歯科医院選びのポイント

歯科関係の本をたくさん読んで知識を身につけても、いい歯医者さんに出会えなかっ たら結局なんにもならない…そういうご不満をたくさん聞いてきました。そこで、まず 「知識」の前に、安心して治療を受けることができる歯医者さんの探し方、選び方の鉄 則を説明します。 鉄則?自分の歯医者さんは自分で見つける 歯の病気とその治療では、正しい方法はひとつではありません。「いのちの治療」で は正しいことはひとつですが、「生活の医療」では何が正しいことか、それを決めるの は患者さんです。慢性の病気や障害の改善、あるいは不調や不具合をなくして日常生活 の質を高める医療を、「生活の医療」と呼びます。「生活の医療」で大事なのは一人ひ とりの生活の質なのです。 患者さんの求める健康や生活の快適さ、すなわち生活の質は、一人ひとり違います。 ですから、本や新聞が推奨する歯医者さんが自分にとって最良の歯医者さんであること はむしろまれなのです。がんを治す奇跡のキノコから、咬み合わせの治療をする歯科医 まで。自己宣伝なのか、世の中に知られていないほんとうのことが書いてあるのか、判 断はむずかしいでしょうが、お医者さん自身の自己宣伝の匂いをちょっとでも感じたら 信用してはいけません。 鉄則?どんな医療を受けたいか、ちゃんと考えながら歯医者さんを決める 歯科医療の最も重要かつ最低限の条件は、まず?しっかりと患者さんの状態を診査す ること、?その記録を示して患者さん自身が自分の状態を理解できるように説明するこ と、そして?悪くならないための基本的なリスク管理を確実に行うことの三点です。そ の三点を見極めるためには、次のようなポイントをチェックするようにしましょう。 ◇資格(歯科衛生士)をもったスタッフが二人以上いる。 ◇口の中の写真とX線を撮影して説明してくれる。 ◇検査結果を記録している(患者の古いデータがすぐ出てくる) このほか、細菌や唾液の検査データも、リスク管理をしようと思えば必要なポイント です。 さまざまな処置が上手なことも大事です。しかし、患者さんが自発的に健康になろう としなければ、どんな治療もよい結果に結びつきません。 鉄則?気の合う人に相談して噂を聞く 地域の評判で、かかりつけ歯科医を選べば大きな間違いはないでしょう。その場合に 注意したいのは、その情報提供者があなたの気の合う人かどうかです。ライフスタイル が理解し合えて、生活の好みが似ている人の情報はあてになります。でも、「好きじゃ ないけど情報通の人」の情報は、あなた自身のかかりつけ歯科医を選ぶ場合には、しば しばガセネタです。 人々が噂する「よい歯医者さん」は、「すぐに治療してくれる」という理由だった り、「痛くない」であったり、さまざまですが、治療によっては、「すぐに治療してく れる」ことが悪いことだったり、「痛くない」処置が悪いことだったりするのです。  

むし歯も歯周病もバイオフィルム感染症

〇新陳代謝のないところに細菌が増殖   定期的なクリーニングの目的はバイオフィルムの破壊と除去です。むし歯や歯周病の原因となるバ   イオフィルムについて、もう少しご説明しましょう。   人間の皮膚には、皮膚ブドウ球菌という細菌がたくさん住んでいます。酸を出して(汗が酸っぱい   のはこのため)皮膚を守ってくれています。この細菌が固まりになって悪さをすることはありませ   ん。皮膚は、次々に剥がれ落ちて新しくなりますから、細菌が大きな固まりをつくることはないの   です。   歯の表面では細菌が特殊な成長をします。ここが歯の病気が厄介なところです。歯や歯根の表面は   新しくなって剥がれ落ちること(新陳代謝)がないのです。同じ問題は、病気の治療のために皮膚   を貫通して、からだに差し込まれるプラスチックの管(カテーテル)でも起こります。血管や消化   器、尿道などに差し込まれますが、いったん細菌がつくと、繁殖して固まりになります。治療の道   具のカテーテルが新たな感染源になるのです。このため細菌学者は、殺菌剤でも退治できない細菌   の固まりをバイオフィルムと呼んで注目しています(歯科では歯の表面についたバイオフィルムを   デンタルプラーク=歯垢と呼んできました)。   〇どうして歯周病はクスリで治らない?   台所の三角コーナーや風呂場の排水口の内側に層になってくっついているしつこい汚れ。あれがバ   イオフィルムです。細菌がネバネバの多糖体をつくって、固体の表面にくっついていて大きく成長   しているのですが、表面はフィルムでカバーされ洗剤はもちろん、強い殺菌剤を使っても簡単には   きれいになりません。タワシでこすってはじめて落とすことができます。タワシの当たらない窪み   や隅っこからネバネバの汚れを取り除くのは容易ではありません。   バイオフィルムを除去するには、今のところ力づくの除去方法しかありません。細菌の集団を守る   バリアが強力なので、それを破壊しなければどんな薬も細菌まで到達しないのです。   バイオフィルムは、細菌たちがつくる大きな都市です。細菌たちはからだの外につくったネバネバ   (多糖体)でしっかりと住処をつくり、そこにぎっしり集団生活をしています。そこには下水道も   あれば連絡網もあります。まるでひと固まりで一つの生物のように、お互いに遺伝情報までやりと   りして生活していることがわかってきました。ただの固まりではなく、とても複雑で安定した集団   なのです。このためにバラバラの細菌のようにヤワではありません。   むし歯も歯周病も従来の感染症のイメージではうまくとらえられません。細菌がつくるバイオフィ   ルムがその謎に答えてくれます。バイオフィルムをそのままにしなければ、むし歯や歯周病にかか   ることはないのです。      

むし歯の細菌は、だれから感染するか

〇ミュータンス菌は、親から感染   誕生前の赤ちゃんの口の中には、もちろん細菌はいません。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中に   は、すでに細菌がいくらか検出されるようですが、(産道をくぐり抜ける間にもらってしまうらし   い)、むし歯の細菌(ミュータンス菌)はいません。むし歯の細菌が、口の中に見つかるのは、乳   歯が生え始める生後六ヶ月ごろです。   では、このむし歯菌はどこから赤ちゃんの口の中に感染するのでしょうか。普通、最も密接にふれ合   う保育者から感染します。一般的にはお母さんですね。お父さんや保育園の保母さんということも   あります。   ところで、むし歯を引き起こすミュータンス菌は、同じ種類でもわずかな違いで7タイプに分けら   れますが、お母さんと子どもの口の中にいるミュータンス菌をそれぞれ調べてみると、ほとんどの   場合が同じタイプのものでした。ミュータンス菌は、親から子に感染しているのです。   〇むし歯の感染を防ぐ   むし歯菌が親から子に感染するとなると、どうしたらいいのでしょう。むし歯を伝染させないために   スキンシップもスプーンの口移しもやめたというお母さんがいました。しかし、むし歯の伝染は防   いでも、母子の一番大切なつながりを忘れてしまったのでは、かえって大問題です。   この悩みを、次の研究が解決してくれました。   フィンランドの女性研究者サーダリンさんは、面白い研究をしました。歯科検診に参加した妊婦の   口の中の細菌レベルを調べて、ミュータンス菌がいっぱいいる妊婦を選び出し、お産が終わって、   赤ちゃんが三ヶ月?二歳の間、お母さんにキシリトールガムを食べさせたのです。そして、子ども   の口の中のミュータンス菌を調べました。子どもにはキシリトールガムは食べさせていないのです   が、キシリトールガムをかんだグループのお母さんの子どもたちの口の中からは、ミュータンス菌   が少ししか見つからなかったのです。ガムをかませるのをやめてからも調査はつづいていますが、   やっぱりガムをかんだ母親グループの子どもたちは、ミュータンス菌が少ないままなのです。   お母さんの口の中のミュータンス菌を少ないレベルに維持すると、子どもに感染しにくくなるらし   いのです。これは、母子の一番大切なつながりが、子どもをむし歯菌から救うことができることを   示しています。   この研究より前に母親のミュータンス菌を減らす予防処置をしたところ、何もない子どもたちの口   の中の細菌に大きな違いが生じたという実験が報告されています。三歳で実験を終了した後も差は   開いたままでした。   これはミュータンス菌の代わりに、いわゆる善玉菌が勢力を広げたために、ミュータンス菌が感染   しにくくなったものと考えられています。むし歯の数にも当然大きな差が出ました。

定期クリーニングは必要です。

〇歯医者って、通っても歯は悪くなるじゃない? これは、まじめに歯科医院に通いつづけた人たちの本音かもしれません。ちょっと悪くなるたび に受診していたのに歯を失っている・・・しばしばそういう方に出会います。残念ながら事実のよ うです。 ほんとうは、患者さんが生涯にわたって歯で悩むことなく「おいしく食事ができて、苦もなくお しゃべりができて、気兼ねなく笑える」ようにするのが、歯科医療の役割なのですが、残念なこと に歯科医の教育も国の医療制度も、そして多くの歯科医の関心もそういう方向を向いていません。 削って詰めてかぶせて、入れ歯を入れて・・・、その後どうなるかを考えていません。治療の考え 方も材料も技術も医療保障も、本来、患者さんの利益にならなければ価値はないはずです。そして 同じ患者さんの利益でも、そのときばかりの利益ではなく、生涯の利益を考えるのが専門家の責任 です。 じゃあ、どうすればいいのか。そのキーワードが「かかりつけ」です。 〇治療のくりかえし 歯医者さんにまじめに通ったといっても、幼いころ小さなむし歯の穴を詰めるのに始まって、悪 くなっては削って詰めて、さらに悪くなったらかぶせて・・・とその場その場で治療をくりかえし たのでは、歯は悪くなる一方で、よくなる理屈はありません。反対に、痛くて耐えられなくなるな でガマンして、どうしようもなくなって、歯医者さんに駆け込む。これもからだによいわけはあり ません。炎症と痛みは、からだに大きなストレスを及ぼしますし、感染したところからは血液の中 に多量の細菌が流れ込みつづけています。 じゃあ、どうすればいいのか。そのキーワードが「かかりつけ」です。 〇キーポイントは定期的なクリーニング 「かかりつけの歯科医院をもっていますか」とたずねると、80?90%ぐらいの人は、「もっ ている」と答えます。しかし問題は、そのかかりつけの中身です。悪くなるたびに治療するだけで は、かえって悪化を加速させてしまいます。こんな受診では、いくら頻繁に通っていても、かかり つけとはいいません。また、年に一度定期的に通って検査を受ける、悪いところがあったら治療す る。この定期点検型も、ちょっと似ていますが、やはりかかりつけとはいえません。 「かかりつけ歯科医院」のキーポイントは、定期的なクリーニングにあるのです。治療のために受 診するのとは違う、まったく別のかかり方です。 「なんだ、そんなこか、クリーニングならたいしたことじゃない」と考える人もいるでしょう。 〇定期的なクリーニングの目的はバイオフィルムの除去 「歯ブラシの届かないところの掃除だね」歯医者さんでクリーニングを受けたことのある人は、そ んなふうに考えるでしょう。しかし、その<掃除>のポイントはなかなか複雑です。 ちょっと耳慣れない言葉でしょうが、バイオフィルムという細菌のすがたを知れば、どうして定 期的にクリーニングする必要があるのか、どうして薬じゃダメなのか、どうして家庭での管理だけ ではうまくいかないのか、ご理解いただけるでしょう。定期的なクリーニングの目的は、バイオ フィルムを破壊し除去することなのです。 若いころからかかりつけ歯科医院で定期的なクリーニングを受けていれば、年を取って入れ歯に なることはありません。中年になって、ちょっと悪くなってからでも、まだ手遅れではありませ ん。さらに、患者さん一人ひとりの病気のかかりやすさを調べ、それに基づいてリスクをコント ロールすれば、入れ歯になる危険は、ほぼなくなります。 くりかえし言いますが、「定期的に点検をしてくれる」だけではダメです。バイオフィルムの破壊と除去、つまり専門的なクリーニングのない定期的な点検では、意味がありません。  

やはり定期検診(歯石取り)は重要です。

〇ズサンな治療だから長持ちしない、のではない 治療した歯が長持ちしないのは、必ずしもズサンな治療が原因ではありません。精度の高い治療 は、見た目が美しく、清掃しやすく快適です。ただし、歯の長持ちに直結するわけではありませ ん。悪くなってからの治療そのものが、歯を失うリスクと引き替えなのです。歯の長持ちは、処置 の精度よりも処置後の継続的なケアに左右されます。 たとえば現在の一般的なクラウンは金属の精密な鋳物製ですが、その平均耐用年数は7.1年。 これに比べて金属板でできた旧式のクラウン(あまり歯を削らない)は12.7年という信頼でき るデータがあります。また、金属を練ったアマルガムという詰めものは7.4年ですが、それより 手間のかかるインレー(精密な鋳物)は5.4年しかもっていません。 治療がやり直しになる原因の三割以上は、むし歯の再発です。その次に多いのは、歯の中の炎症 や神経を取った後のトラブルで、合わせて二割くらいです。 〇定期管理をすればブレーキをかけることができる このように削って修理した歯は、再治療が避けられないのです。このため年を取るにつれて歯の 治療は大きくなっていきます。インレーがクラウンに、クラウンをかずせた歯が失われブリッジ に、ブリッジの土台になった歯が失われ部分入れ歯に変わっていくのです。これに対してかかりつ け歯科医で定期管理をしていれば、歯の喪失にしっかりとブレーキをかけることができます。30 歳をすぎてからはじめて受診した人でも(当然修復した歯がたくさんあるのですが)、定期管理を つづけている間(平均約7年間)に一本も歯を失わない人は約八割です。もちろん若いころから定 期管理をするに越したことはありません。 歯科医師の教育でも、歯を治療して、最後に歯が抜けて入れ歯になるのが普通の姿だと教えられ ています。従来の歯科医は、悪くなってしまった人の悪い部分ばかりを見ていたために、年を取っ て歯がなくなるのは当たり前だと勘違いしていたのです。