むし歯も歯周病もバイオフィルム感染症
〇新陳代謝のないところに細菌が増殖
定期的なクリーニングの目的はバイオフィルムの破壊と除去です。むし歯や歯周病の原因となるバ
イオフィルムについて、もう少しご説明しましょう。
人間の皮膚には、皮膚ブドウ球菌という細菌がたくさん住んでいます。酸を出して(汗が酸っぱい
のはこのため)皮膚を守ってくれています。この細菌が固まりになって悪さをすることはありませ
ん。皮膚は、次々に剥がれ落ちて新しくなりますから、細菌が大きな固まりをつくることはないの
です。
歯の表面では細菌が特殊な成長をします。ここが歯の病気が厄介なところです。歯や歯根の表面は
新しくなって剥がれ落ちること(新陳代謝)がないのです。同じ問題は、病気の治療のために皮膚
を貫通して、からだに差し込まれるプラスチックの管(カテーテル)でも起こります。血管や消化
器、尿道などに差し込まれますが、いったん細菌がつくと、繁殖して固まりになります。治療の道
具のカテーテルが新たな感染源になるのです。このため細菌学者は、殺菌剤でも退治できない細菌
の固まりをバイオフィルムと呼んで注目しています(歯科では歯の表面についたバイオフィルムを
デンタルプラーク=歯垢と呼んできました)。
〇どうして歯周病はクスリで治らない?
台所の三角コーナーや風呂場の排水口の内側に層になってくっついているしつこい汚れ。あれがバ
イオフィルムです。細菌がネバネバの多糖体をつくって、固体の表面にくっついていて大きく成長
しているのですが、表面はフィルムでカバーされ洗剤はもちろん、強い殺菌剤を使っても簡単には
きれいになりません。タワシでこすってはじめて落とすことができます。タワシの当たらない窪み
や隅っこからネバネバの汚れを取り除くのは容易ではありません。
バイオフィルムを除去するには、今のところ力づくの除去方法しかありません。細菌の集団を守る
バリアが強力なので、それを破壊しなければどんな薬も細菌まで到達しないのです。
バイオフィルムは、細菌たちがつくる大きな都市です。細菌たちはからだの外につくったネバネバ
(多糖体)でしっかりと住処をつくり、そこにぎっしり集団生活をしています。そこには下水道も
あれば連絡網もあります。まるでひと固まりで一つの生物のように、お互いに遺伝情報までやりと
りして生活していることがわかってきました。ただの固まりではなく、とても複雑で安定した集団
なのです。このためにバラバラの細菌のようにヤワではありません。
むし歯も歯周病も従来の感染症のイメージではうまくとらえられません。細菌がつくるバイオフィ
ルムがその謎に答えてくれます。バイオフィルムをそのままにしなければ、むし歯や歯周病にかか
ることはないのです。